第3期第2回:優秀作品


柳川昌平 「劇評 ブス会『淑女』」

 よく、生まれたての赤ちゃんの不細工さを「猿みたい」と揶揄する。でも、猿と名づけてしまうと、そこで不細工さは止まってしまうのだ。本当はもっと不細工なのに、もっと面白い例え方が出来るかもしれないのに…。とはいえ、赤ちゃんは素直に可愛いと思った方がいいのは分かっている。でもどこかで、人を見て笑いたい気持ちがあるのも事実。  原宿のリトルモア地下で上演された劇団「ブス会」の新作『淑女』は、そんな願いをかなえてくれる。ただし、描かれるのは神聖な赤ちゃんではなく、おばちゃんだ。年齢を経た分、見た目だけではないその不細工さをいろんな角度から見ることができる。登場するのは、おばちゃんになるかならないか、の間で蠢く女性たち。とある清掃サービスの会社で働く4人の女性たちだ。しかし観ていると、感じる面白さに親近感があることに気付く。
 私たちは普段の暮らしの中でよく知っている。生命力にあふれ、異常にコミュニケーション能力が高い、あの女性たちを。あだ名を付けるのが好きで、周囲の人の好みを熟知し、声のオクターブを使い分け、周りからそこそこ好かれ、でもいなくなってもそれほど寂しくはない、あの女性たちだ。…といった具合に、登場人物を観ながら、自分の周囲の似たような人を思い浮かべて、どんどん面白さを足していく楽しみがあるのもこの舞台。
 でも一歩引けば、日常でそういう人たちに私たちが向ける視線は残酷だ。あるいはそうなりやすい。なぜなら人を面白がる視線と、「人をそういう目で見てはいけない」と言われるような視線が紙一重だからだ。でもこの舞台では、その視線を少しずらせばこんなに笑える、と慎重に導線を引くことで、ボーダーライン上で女性たちを見事に踊らせた。  同じ日常で「そういう目で人を見てはいけない」という視線を解放し、娯楽化するのはAVの世界だ。それならば、劇団主宰のぺヤングマキがAV監督でもあるのは当然だと言えるだろう。あと、この舞台を観た後、自分は何か悪いことをしたんじゃないか、と少し空しくなったのも同じ理由かもしれない。
 気を取り直そう。ベテランの清掃員役を演じた岩本えりがよかった。泣くシーンで、全然可哀そうじゃない、というおばちゃんとしての基準は見事にクリア。目を見張ったのは、新人の清掃員に対して消毒剤の説明をする、という真面目なシーンで笑えたことだ。ただ居る姿が面白いという、敢えて漫画界で言えば水木しげるや蛭子能収クラスの存在感だった。
 「ブス会」では、別に特におばちゃんにこだわってはなく、作品ごとに女性の様々な面を描いているらしい。たぶん、どの作品も洗練すれば目指す所は似ていると思う。でも、あまり洗練させず、様々な断崖絶壁を登る過程をこれからも見せてほしい。

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