第3期第2回:優秀作品


田中孝枝 「劇評 ブス会『淑女』」

 女子会からお帰りの淑女の皆様、ごきげんよう。今日も元気に仕事の愚痴や男への不満、最新スイーツの話題で盛り上がりましたか?私は独り、ブス会の「淑女」を観劇し、盛り上がってまいりました。
 ブス会とは、劇団ポツドールの「女シリーズ」で脚本・演出を手掛けた溝口真希子ことペヤングマキが立ち上げた演劇ユニット。女性なら誰もが「あるある」と肯いてしまうようなシチュエーションと会話を積み重ねて「女ってこうだよねー!!」と言わせてしまう人たちです。  その第二回公演「淑女」では、ハウスクリーニングを行う会社の事務所が舞台。登場人物はパートの主婦達と新人のフリーター。リーダー格でいつでも正論を口にできる鈍感さを持つ前田。その前田にくっつき、弱者の立場で保身を計る鈴木。自称モデルで自分はここにいるべき人間ではないと思っている吉岡。そこに入ってきた、新人バイトの小島。幕が開いてすぐに始まったのは、遅刻している吉岡(不在)がいかに使えない人物であるかを新人の小島に伝える、というあるあるっぷり。ダサい制服で「お掃除おばちゃん」として働く登場人物達はその小さな世界でそれぞれ誰かと誰かの対立構造を煽ったり一緒に責め立てたりしながら、そこに居る誰もが「自分はこの人たちとは違う」という境界線を引いて、でも表向きには穏便に、その関係を微調整しながらなんとなく丸く収めているのです。
 そう。境界線。人生は、境界線に満ち溢れています。美醜に年齢、夫や子供の有無。その境界線のあっち側に居るかこっち側に居るかはとっても重要。特に男性と比べて、他者から与えられる「肩書」が大雑把な女性は、常にどう見られているかを正確に把握しながら自身を演出し、コミュニティの中ではその立ち位置を間違えない事が重要になる。そういった行為の先にある関係は非常に馬鹿馬鹿しいものに見えるかもしれません。なんせ人間関係と言えば「本音で付き合う」事を良しとされるもの。更に笑いながら口にする嫌味や、自分のいない所で繰り広げられているかもしれない自身の悪口は恐怖でもありましょう。しかし同時にこの関係の築き方は、ぶつからない事に重きを置いたものでもあります。それは人間関係の本質とは言えないかもしれないけれど「あなたと私は違う人」という意味ではとても合理的。そして本音では嫌いなあの女とも、表面上は付き合える程度の許容力も持っています。
 後半、事件によってコミュニティの問題が露呈していくのに、ペヤングマキの脚本は、核心ともとれる言葉の後に、みみっちい言葉を繋げます。その「本質とは関係ない所で大騒ぎ」感が女性のコミュニティをも表しているように見えて。みみっちい自慢やプチ嫌味で相手を牽制しつつ(同時に自分の溜飲も下げ)その場を丸く収める為にバランスを取る。その丸は歪ですが、コミュニティに危機をもたらした人間さえも”表面上は”許せる優しさもあるのです。

↑ページ上部へ