第2期第5回:優秀作品


諸星友亮 相対性理論 『シンクロニシティーン』

 オリコン初登場7位を記録した1st『ハイファイ新書』に続く相対性理論の2ndアルバム。1曲目にディスコビートを置き、終曲に気の抜けたようなバラードを置くという構成は変わっていないが、音楽的には相当な変化が。いや相対性理論の音楽性自体はほとんど変わっていないが、前作と比べるとミックスの違いによって、別のバンドか?と錯覚させるような仕上がりに。具体的には相対性理論がギター、ベース、ドラム、ヴォーカルという4人のオーソドックスなロックバンドであることを強く示すように各楽器の演奏がよりハッキリと聴こえる様になった。また前作でも黒人音楽に対する憧憬はにじみ出ていたが、今回はそれ以上。正直それが気負いに感じられてしまうというか、全編でベースとドラムがあまりにそれっぽくてクドい。特にドラムの手数の多さは耳に妙に引っかかる。つまり演奏が"ファンキー"というよりも"ファンキーな演奏を懸命にコピーしようとした"というような感触がより強まってしまった。
 しかしだから悪いのではなく、むしろこれはある意味では好ましい変化である。というか少なくとも僕は相対性理論がもっと好きになったし、親近感が湧いた。相対性理論を語る上で機知に富んだ歌詞やあるいは売り出し方の戦術は欠かせないものだし、それがなければ相対性理論は相対性理論ではない。でも音楽面に焦点を当てれば相対性理論とは真っ当なリスナーが楽器を持ち、そして真っ当な音楽を作ろうとしている、それだけのバンドである。
 相対性理論の引用元はヘヴィリスナーにとってみれば恐ろしくわかりやすく、素直なものだ。例えば8曲目「三千万年」はモータウン調(というかギターの音色も含めて自主音源の頃も引用したイギリスのスミスだろうか)で、5曲目「(恋は)百年戦争」はユーミンの「ルージュの伝言」(『COBALT HOUR』収録)とギターとドラムのリズムがほとんど同じ。そして7曲目「マイハートハードピンチ」はその『COBALT HOUR』のほぼ全編でギターを弾いているティン・パン・アレーのメンバー、鈴木茂の代表曲「微熱少年」(『バンドワゴン』収録)を想起させるようなワウを効かせたファンク調(ちなみに鈴木茂は「ルージュの伝言」ではギターを弾いていないが)。そう、極めて真っ当に"良い音楽"を下敷きにしているのである。9曲目「気になるあの娘」には「気になるあの娘の頭の中は普通、普通、割と普通」という一節があるが、それはまさに相対性理論自身のことだろう。
 稀代のトリックスター、策士であるかのように扱われることも多く、実際そういう面も多分に持ち合わせているバンドだが、音楽的な内実は割と普通。普通のバンドなのだ。でも果たして普通にいい曲を書き、その元ネタをきちんと明示してくれて、その元ネタを探したくなる様な音楽を作れるバンドってどのくらいいるのだろうか。前作にあった妙な余裕は後退してしまったが、これはこれでよい作品だ。

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