第2期第1回:優秀作品


落雅季子 庭劇団ペニノ『アンダーグラウンド』

医学部出身という経歴を持つタニノクロウ主宰の、庭劇団ペニノ『アンダーグラウンド』がシアタートラムにて再演された。ピアノ、クラリネット、ドラム、バイオリンの生演奏とともに、外科医や助手で構成されたチームが登場する。心臓を取り出すまでの、60分のカウントダウンが電光で表示され、パッケージングされた見世物としての"手術ショー"が、始まる。セットは全体的に白いタイル貼り。手術台の下を水がひたひたと打っている。マメ山田は、プールの監視員が座るような背の高い椅子の上から、楽しそうに時間をカウントしていく。2006年の初演時は、執刀医として名実ともに主演をつとめ、彼が臓物を釣り竿で釣り上げるシーンが作品のハイライトであったが、今回は完全に構造を組み替え、彼は"指揮者"の役目に徹していた。そのために作品を支配し、より鮮烈な存在感を発揮していたと言える。
 患者役の人形からひとつずつ臓器が取り出されるたび、ファンファーレのようなフレーズがバックバンドによって演奏される。執刀担当者から病理担当が臓器を受け取り、水洗いし、顕微鏡で覗く。その反復が、呈示・展開・再現という、いわゆるクラシック音楽のソナタ形式の暗喩にも思え、パフォーマンス自体の音楽的構造の純度をぐっと高めていた。『アンダーグラウンド』は、初演が4年半も前のことながら"ジャズの生演奏をバックにした外科手術"として、長らくペニノの代表作として扱われてきた。"代表作"と世に認識されている作品の再演は難しい。素直に再現したところで、当時の構造が持っていた強さやインパクトは生きない。今回タニノは、音楽演奏と音楽的要素の入れ子を巧妙かつ絶妙に機能させ、より美しい構造へと昇華させることに成功した。
 本作品のもともとの着想は、タニノが学生時代に見学した実際の手術にあるらしい。器具の触れ合う音、メスで切られた皮膚、流れる赤い血液。それらが織りなす独特の高揚感を再現したかったという。「見ているうちに、お腹からヘンなものが出てきたらおもしろいなって思った」と、彼はアフタートークで語っていた。真剣な場にあって、ふと"すべてを傍観して想像に耽ってしまう"感覚が、彼の作品の根源にはある。そうしたモチーフとの距離の取り方は、前作『太陽と下着の見える町』あたりから、いっそう自覚的になってきた感がある。
 今回、初演時にあったあの薄暗くておどろおどろしい不穏な感じはなかった。これまで照明も暗く、じめじめした地下室のような空気感の作品が多かったペニノだが、前作や本作では、明るい風景が増えてきたようにも感じる。しかしながら同時に、エッジのきいたシニカルさもぞくっとするほど増していて、これが劇団の進化というものだろうかと思わされる。だとすれば再演の意義は大きいし、これからも観続ける楽しみがあろうというものだ。

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