第3期第1回:優秀作品


鳥原弓里絵 福嶋麻衣子・いしたにまさき著『日本の若者は不幸じゃない』(ソフトバンク新書)

 「かわいすぎる代表取締役」としてネットでも紹介され、現在ライブ&バー「ディアステージ」とアニソンDJバー「MOGRA」の二店を運営する株式会社モエジャパンの福嶋麻衣子(通称もふくちゃん)。「ディアステージ」で「学園祭ビジネス」を展開し、多くの人の支持を得ている彼女の著書には、著者自身の経験を通して感じた今の若者像が描かれている。著者は1983年生まれである。私は1986年生まれであるので、ほぼ同じ時代を生きてきた若者同士である。そのためか、頷ける内容が多く書かれていた。
 「生まれて二十数年、ずっと不景気の中を生きてきた」と著者が言うとおり、物心ついた頃から新聞やニュースを見れば不景気という言葉が並び、私の両親はことあるごとに「お金がない」と言っていた(私の家はごく一般的な収入だったのに)。バブルの話はバラエティ番組のネタとして扱われ、そういう時代が実際にあったのだという実感はなかった。大手企業(山一証券や武富士、そごう、日本航空)が次々と倒産や経営破綻していき、いざ自分たちが就職しようとしたら、リーマンショックで就職氷河期が訪れた。不景気でお金がなく、大学を出ても大手企業に就職出来ない時代に生まれてきた。著者はそれでも、今の若者は不幸じゃない、と言う。それには私も全くもって同感である。
 今の時代は、安くて良い物がたくさん買える。例えばファッション。今日の私の服装はカーディガン1500円、ズボン2000円、パンプス1000円、ネックレス300円である。ブランド物にも興味はないので、財布は1500円、カバンは2000円の物を使っている。この値段でも安っぽくなく、十分使える物である。そもそも、高い物を買うことにあまり興味がない。安くて可愛い物が買えればそれで良いと思っている。車も必要ない。車が無くても、部屋から15分歩けばJRに乗れる。お金も必要なだけあれば良い。好きなことがやりたくて、1年前に正社員を辞めた。派遣で最低限稼ぎながら好きなことに時間とお金を費やしている。
   今、AKB48やPerfumeが売れている。顔が特別可愛いわけではない。でも、頑張っている姿を見ているうちにだんだん可愛く見えてくる。そういう人が徐々に集まり、今のような人気につながっている。頑張れば可愛くなくてもアイドルになれる時代である。アイドルだけではない。社長になりたいと思ったら、昔よりずっと簡単に会社が作れて社長になれる。著者の言うように、今は、「選びさえしなければ、仕事なんていくらでもある。なかったら作ればいい時代」なのである。
 ただ、「不透明な10年後のことを考えても意味がない、ならば確実な1年後のことを考えていたほうがいい。それが今の若者たちの考え方」という点には、賛成しかねる。確かに、1年後も今のように楽しく暮らしていれば良いと思うが、10年後には結婚していたいし、子どもも産んでいたい。そう考えると、今の収入では到底無理だ。そういうことは日々考えている。好きだが、お金にならないことにいつまでもお金をかけていてはいけないなとも毎日考える。はっきり言って、将来が不安である。
 将来が不安だから、今の若者はお祭り的なイベントに熱狂する、とも言われている。サッカーワールドカップが良い例である。著者の言う「学園祭ビジネス」も、もしかしたら若者の不安に支えられているのではないだろうか。

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