第2期第6回:優秀作品


鳥原弓里絵『乱暴と待機』(監督:冨永昌敬 原作:本谷有希子)

  少し前に若者たちの間で「逆に」という言葉が流行り、今では普通に使われている。冨永昌敬の最新作『乱暴と待機』は「逆に」がたくさん詰まった映画だった。
 劇作家、本谷有希子の戯曲を映画化した本作は、無職のヒモ男番上と、その妻で妊娠中のあずさが一階建ての古い一軒家の並ぶ団地に引っ越してくるところから物語が始まる。その団地に偶然住んでいたのが、あずさの高校時代のクラスメイトで気の弱い奈々瀬。奈々瀬は男に妙な誤解をさせないように、常に灰色のスウェット姿で、ださいメガネをかけ、髪の毛を2つに結んでいる。しかし、そんな奈々瀬に対して番上は、「そういうの逆効果だよ」と言い、キスをする。女を隠す奈々瀬の姿に「逆に」女を感じるのである。一方、あずさは奈々瀬に高校時代嫌なことをされている。周りの人には気の強いあずさが奈々瀬をいじめているように思われるが、本当は「逆」で、奈々瀬が良かれと思ってすることにあずさは振り回され、傷ついているのだと主張する(その言い方もきついため、奈々瀬が泣いて番上が奈々瀬の味方になる始末)。さらに、奈々瀬と同居している英則は、奈々瀬の恋人でもなく兄でもなく、奈々瀬のことを非常に憎んでいる。憎んでいる相手は遠ざけて関わらないようにするのが普通だが、英則は「逆に」奈々瀬と同居をして、いつでも復讐ができるようにしているのである。奈々瀬は奈々瀬で、「愛よりも憎しみのほうが信じられる」と口にする。愛には根拠が無いが、憎しみには根拠があるため、ずっと長く続くと考えている。愛ではなく「逆に」憎しみを信じる奈々瀬は英則との奇妙な同居生活に幸福を感じている。
 全体に漂うコントっぽいチープなノリには「逆に」人間の滑稽さを感じ、自分を憎んでいる相手に対して最高の笑顔を見せる奈々瀬を見ていると、これって「逆に」究極の恋愛映画じゃないのかと思ってしまった。余談になるが、この映画の前売り券の特典は「覗き穴付きボックスティッシュ」である。英則が天井裏から番上と奈々瀬のセックスを覗く穴と、ティッシュという組み合わせが卑猥で良いなと思ったので、これは「逆に」ではなく、普通に欲しい。

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