松本修(演出家・劇団MODE主宰)氏 インタビュー

聞き手:岡田利規(STスポット)
写真:田中啓介(STスポット)

−−− 僕はSTスポットのスタッフではあるんですが、戯曲を書いたりもするので、この戯曲賞には自分も応募しようと思っているんですが、そういうわけで、今回松本さんには、一応募者としての興味ある事柄をいくつか質問したいと思っています。よろしくお願いします。
今回の戯曲賞は受賞作をSTスポットでリーディング上演することが決まっています。その演出を松本さんが担当されるわけですが、そこでまずは、えらく基本的なことをお訊きしますが、リーディングとはどのようなものなのでしょうか?また松本さんはリーディングをどのようにお捉えになっているのでしょうか? そして松本さんはリーディングという作業によって戯曲から何を汲み取るのでしょうか、あるいは、戯曲に何を付与するのでしょうか。そういったことも伺えたらと思っています。

松本 リーディングとは何か、リーディングをどのように捉えるか、という質問に対する答えは、そのリーディングが何の目的でなされるか、ということによって変わりますね。リーディングは、さまざまある方法論のうちの一つ、ですから。
ドラマリーディングという方法論は海外でさかんに行われているもので、最近日本でもやられるようになってきたんですが、海外の例をいうと、劇団や劇場が、次のレパートリーを選考する際に、新人の劇作家であれ名の知れた人であれ、その新作を何人かの俳優を使って、劇場の支配人やプロデューサーなんかの前で、リーディングという形で発表する、そういう目的で行われることが、もっとも多いですね。

−−− プレゼンテーションとしてのリーディングということですね。

松本 そうです。リーディングという方法は、戯曲を活字として読むだけよりもずっとわかりやすい。戯曲を読んでそこからその場の人物の空間構造とかを読みとる事って、演出家とかはできるけど、普通の人には難しいでしょ。
ほかには、新作を書いた劇作家がみずから評論家などを招いてリーディングを開くんですね、それで、あのセリフは駄目なんじゃないの、とか、ここのシーンはいらないんじゃないの、というような講評を聞いて、書き直す参考にする、といったようなこともよく行われています。ここ(世田谷パブリックシアター)でもひんぱんにリーディングをやっていて、僕も何度か手がけてますが、ここの場合、日本でまだ上演されていない海外の新作戯曲、また旧作であっても知られていない海外のすぐれた作品を紹介することがリーディング上演の主目的ですね。だから一般の観客にも公開してます、料金も千円でね。もちろん演劇関係者も見に来るんだけど。
僕がやったあるイギリスの劇作家の、パンクな作品があって、面白いなあと思って将来的に自分でこれ演出したいと思っていたのがあったんだけど、遊◎機械全自動シアターのプロデューサーがリーディングを見に来ていて、気に入られちゃって、来年あたり白井(晃)さんの演出でやるらしいです。ちきしょう取られた、と思っていて(笑)。

リーディングってのは果たして演劇なのか、っていう問題もありますが、それに関しては、僕は基本的にはリーディングは演劇ではないという気がしているんです。しかし演劇に至るプロセスを見せるものではある、というふうには思っています。

−−− 応募したい人間として気になることを訊きたいんですけど、リーディングに向いている作品と向いていない作品というのがありますが、それは選考の基準のひとつになるんでしょうか。

松本 いや、他の二人の選考者の方(加藤直氏、大岡淳氏)がどう考えるかはともかく、少なくとも私はリーディングしやすさということとは無関係に選考したいと思います。 確かにリーディングに向いているホンと向いていないホンというのはあって、極端に言えば太田省吾さんの『砂の駅』はリーディングには向いてない(笑)。
世田谷パブリックシアターでカフカの小説『アメリカ』をリーディングしたことがあって、その時、小説はリーディングに向いているなあって思いましたね。当たり前なんですけどね。 あと、セリフの長短ということで言うと、長いセリフはリーディングに向いているけど、日常的な短いやりとり、例えば「こんにちは」「やあ、こんにちは」「夕べはどうしたんだよ」「やあ、ちょっと遅くまで飲んじゃってさ」みたいな会話は、俳優がホンを見ながらやっているのを見てるとすごく、気持ち悪いんですね。だから僕はそういう短いやりとりは俳優に憶えてもらって、長いところはホンを見てもらって、というやり方をしたりします。
 今回のリーディングの目的は、こういう作品が戯曲賞を取りました、ということを世に発表することにありますから、それにかなった演出をしたいと思っています。

−−− 今回のリーディングの目的としてもうひとつ、これは東京新聞(8月22日づけ)のインタビューに加藤直さんが答えられていたことなんですが、リーディングの稽古現場に作家も参加して、演劇の現場で自分の言葉が検証されていく過程を経験してもらう、というのがあります。

松本 そうですね。自分で演出をする作家もいますけど、机の前だけで書いている劇作家というのもいっぱいいるので、自分の頭の中でイメージしていたセリフの聞こえ方と、あなたのセリフは舞台上に上げたときにはこういうふうに聞こえるんですよ、という実際の印象が大きく食い違っている、というようなことも多いと思います。そのことを知る経験は劇作家にとって大いにプラスだと思いますね。

−−− 例えば僕は自分で演出もするんですが、だから自分が書いた戯曲の検証作業というのは稽古場でやればいいやと思っているところがあって、というか、稽古場でないとそれはできないと思っているんですが、そういう人の場合だと、未上演の戯曲をもし応募するとなると、未検証のもの、つまりその点についてきわめて自信がないものを出してしまうことになるわけですが、そういう点というのは、なんといいますか、虫のいい話なんですが、斟酌していただけるものなんでしょうかね。

松本 それは三人で全然違うでしょうねえ。
 僕は演出したりたまに役者もやったりはするけど、でも書く人間ではないので、そういうこともあって、戯曲というものをそもそもあまり信用していないところがありますね。たとえばある戯曲を上演したとき−−それは岸田戯曲賞受賞作品だったんだけど−−そのなかで審査員に絶賛されていたあるシーンを、僕はまるまるカットして上演しちゃったこともあります。そのシーンは演劇的にだめだろ、と僕には思えたからなんですけどね。

 岸田戯曲賞の審査員は−−同時に演出も手掛ける人はいるにしても−−劇作家ですよね。劇作家が選考する戯曲賞と演出家が選考する戯曲賞では選ばれるものは違ってくるでしょうね。劇作家は言葉という単独の要素だけで成立している戯曲そのものを評価するけど、演出家は、言葉と俳優と演出と、それらのコラボレーションで立ち上がっていく舞台そのものが面白いかどうか、そういう観点で戯曲を読み、評価するでしょう。

−−− 今回のかながわ戯曲賞は演出家が選ぶ戯曲賞ですね。

松本 ですから今回の戯曲賞でも、実際の舞台がどうなるか、と考えたときにさまざまな可能性がみえてくるような作品、を僕は選びたい。僕ならどう演出するか、僕ではない他の演出家だったらどうするだろうか、を考えたくなる作品。というより、そういう観点からしか僕は選べない。ト書きが流麗でも、現場の俳優や演出家への具体的な指示やアドバイスになっていないと、意味ないと思うし。そういう流麗なト書きのある戯曲をやるときは、その部分を真っ黒く潰して役者に台本を渡したりしたこともあります。

−−− では少なくともこのかながわ戯曲賞に関しては、流麗なト書きを書いても受賞できるわけではないよ、ということですね。

松本 そうですね。

−−− 演出家にとって魅力が感じられる戯曲、ということについてもう少し具体的に聞かせてもらえますか。それはたとえばどういう戯曲のことなのでしょうか。

松本 これは僕の経験ですけど、すらすらと読めてしまった戯曲というのは、得てして舞台にしたときに面白くないんですよね。戯曲だけで完結しちゃっているから。読んで面白かったんだから、わざわざ舞台にすることないじゃないか、という。そうではなくて「あれ、これはどういう位置関係になっているんだろう」「どういう構造になってるんだろう」ってなにか引っ掛かってくるものがあると、それを読み解いてみたくなる。それは文字として読んだだけでは分からない、演劇的な何かがそこにあるということだから。そういうのには惹かれますね。
さっきも言いましたけど戯曲を読むって一般の人にはなかなか難しい作業だと思うんですよね。その時の人間の配置関係とかいちいち考えながら読むのって、たいへんでしょ。別役さんのとかオリザのとか、空間が把握できてないと分からないから、あれを読むだけで理解するのって普通できないと思うんですよ。でもそれが、演劇的な戯曲であるということの、たとえば一つの具体例ですよね。
そのほかには、読んでて「これいったいどうやって上演するんだよ」っていうような、たとえばハイナー・ミュラーのみたいな、単にテキストでしかないようなもの、無言劇でやってもいいし一人が全部しゃべってもいいし、何人かで分けてしゃべってもいいし、どうやって舞台にするかは演出家が考えてください、というようなものにも惹かれますね。 いずれにしても、なぜ戯曲なのか。小説でも詩でもなく、演劇である理由がある戯曲、が賞をとってほしいと思っています。

−−− ありがとうございました。
(世田谷パブリックシアター稽古場にて)


かながわ戯曲賞については
神奈川芸術文化財団のサイト http://www.kanagawa-arts.or.jp/osi/index_os.htm
当サイト内の「Wanted」 http://www.jade.dti.ne.jp/~stspot/Wanted/wanted.html
などを参照ください。




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